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特定の野菜・果物にこだわらないブロッコリーの他にも、「この野菜や果物がいい」「この野菜のこの栄養素がいい」 「このフ1果物のこの成分がいい」と喧伝されているものの大部分は、研究としてはこういう段階にあります。
われわれ研究者も、将来そうした栄養素や成分が、じっさいの人間のがんを予防するということが確かめられることを、期待しながら待っています。
ただし現時点では、あまり特定の野菜や果物にこだわらないで、「いろいろなものを取り混ぜて食べましょう」というのがもっとも適切ですし、じっさいに世界がん研究基金の報告書も、そういったかたちでの結論の出し方になっています。
では、野菜や果物に含まれるいろいろな栄養素のなかで、がん予防効果についてそれなりの根拠のあるものは一つもないのでしょうか。
世界がん研究基金の報告書では、二つだけ栄養素レベルでの判定をしています。
第一はカロテン類です。
これはβ‐カロテンだけではなく、a-カロテンやリコペンなどを含むカロテン類全般が、「おそらく確実」に、肺がんのリスクを下げると判定されています。
第二は、ビタミンCが、やはり「おそらく確実」に、胃がんのリスクを下げると判定されています。
ただし、カロテン類もビタミンCも、普通の食べ物を通して摂った場合の話であって、サプリメントを通して大量に摂った場合の話ではありません。
前立腺がんとリコペンの効能「がん消滅」「有効率九六・八パーセント」 健康食品の広告をみていると、とても大きな効果を謳った、こうした表現をよく目にします。
けれども、ある食べ物や栄養素にがん予防効果かおるというとき、じっさいの効果の大きさは、どの程度のものなのでしょうか。
トマトと前立腺がんに関する最近のコホート研究を紹介しながら、この問題について考えてみましょう。
この研究は、トマトとトマト製品(トマトソースやトマトジュースなど)、さらにトマトに多く含まれるカロテン類の一つであるリコペン(トマトの赤色のもと)が、前立腺がんのリスクを下げるという仮説を調べるために、ハーバード大学のグループが行いました。
『米国立がん研究所ジャーナル』の二〇〇二年三月六日号に、論文として報告されています。
四万七三六五人の男性保健専門職(歯科医や薬剤師など)を対象として、一九八六年(昭和六一年)にトマトとトマト製品やリコペンの摂取量を調べました。
図表3-3 リコベン摂取量による前立腺がんの相対発生率『米国立がん研究所ジャーナル』2002年3月6日号 ハーバード大学調べ最小群 その後一九九八年(平成一〇年)までコ一年間の追跡調査を行い、二四八一例の前立腺がんを確認しました。
コ一年間の研究期間のあいだには、対象者の食生活も変化します。
そのため、摂取量の調査は、一九八六年の研究開始から、四年ごとに繰り返して行いました。
リコペンの摂取量の大小により、対象者を二〇パーセントずつ五つのグループに分けてみたところ、摂取量が最小(下位二〇パーセント)のグループと比べて、最大(上位二〇パーセント)のグループでは、前立腺がん発生率が〇・八四倍に下かっていました(図表3-3)。
つまり、摂取量が上位二〇パーセントのグループでは、下位二〇パーセントのグループと比べて、前立腺がんリスクが一六パーセント低いという結果でした。
一方、リコペン摂取量が中間の三グループの前立腺がん発生率は、摂取量が最小のグループとほとんど変わりませんでした。
同じような分析を、リコペンのもっとも有力な食品源であるトマトソースについても行ったところ、摂取頻度が最小のグループ(月に一回未満)と比べて、最大のグループ(週に二回以上)では、前立腺がんのリスクが二三パーセント低いという結果でした。
この論文は、トマトやリコペンと前立腺がんについての、人間集団での研究としては、研究方法、対象集団の規模、食生活調査のくわしさなどの点で、これまででもっとも質の高いものです。
ただし、トマトやリコペンと前立腺がんとの関係について、じっさいにサプリメントを投与するような臨床試験の成績は、まだ報告されていません。
そのため研究の現状では、リコペンやトマト製品による前立腺がん予防効果が、確定的に示されたと結論づけるのは時期尚早です。
とはいえ、もしもかりにリコペンやトマト製品に予防効果があるとすれば、その大きさは前立腺がんリスクを二〇パーセント下げるくらいのものであることを、今回の研究は示しているといえるでしょう。
回一〇パーセント程度のがん予防効果」を、皆さんはどう思われるでしょうか。
「がん消滅」「有効率九六・八パーセント」を期待する人には、がっかりする数字かもしれません。
けれども、トマトのような日常簡単に口にできる食べ物を多く食べることで、二〇パーセントのリスク低下が期待できるなら、十分意味のある話ではないでしょうか。
他の食べ物や栄養素についても、がん予防効果があるとして、その大きさはおそらくこれと同程度だろうと思います。
むしろ、「がん消滅」「有効率九六・八パーセント」のような謳い文句のほうこそ、その信憑性を慎重に受けとめる必要かおるでしょう。
緑茶も「一本矢印」の判定 緑茶(お茶)に含まれるポリフェノールに、活性酸素(フリ上プシカル)が細胞や遺伝子を傷つけるのを抑える作用(抗酸化作用)かおることが、培養細胞や実験動物を使った多くの研究で示されてきました。
そのため「緑茶によるがん予防」の可能性が期待されてきました。
むしろ日本では、緑茶のがん予防効果について、「可能性を期待」どころではなく、「確立した事実」であるかのようにいわれてきた経緯があります。
じっさい、緑茶といえば、「がん予防に役立つ健康飲料」というイメージを持つ方も、多いのではないでしょうか。
ところが、第二章で紹介した世界がん研究基金の報告書(図表211、三八~三九ぺ1ジ)では、緑茶と胃がんの関係について、予防の「可能性かおる」という判定に留まっています。
この「可能性かおる」という判定は、「確実」「おそらく確実」の下にくる弱い判定で、「そういう可能性もあるけれど、現時点では研究途上であって、一般の人たちがそれを積極的に取り入れるほどの根拠はまだない」という意味でした。
緑茶によるがん予防を、「確実な事実」とみなす日本社会の風潮と、「可能性に留まる」という世界の専門家の判断。
両者にこのようなギャップがあるわけです。
その理由を考えるために、じっさいの人間集団を対象に行われた研究の状況を、もっとも報告の多い胃がんの例でみてみることにしましょう。
静岡県での地域相関研究 緑茶と胃がんについて、じっさいの人間集団を対象に行われた研究は、これまで一五件あります。
食生活とがん死亡率の地域差を調べる「地域相関研究」が一件、がん患者と健康な対照群で過去の食生活を比べる「症例対照研究」が八件、健康な集団の食生活を調べて追跡調査を行う「コホート研究」が六件報告されています。
一九八九年(平成元年)に報告された地域相関研究は、静岡県内の七五市町村を対象に行われました。
それぞれの市町村について、お茶の葉の生産量と、胃がん死亡率を調査して、両者の関係を調べました。
すると、お茶の葉をたくさんつくっている市町村では、胃がん死亡率が低い傾向があるという結果が認められました。
ただし、それほどきれいな一直線の結果ではなくて、お茶の葉の生産量が多いのに胃がん死亡率も高いというような例外もかなりあります。
けれども、全体としてみると、お茶の葉の生産量が多ければ胃がんの死亡率が低い傾向を認めるという結果でした。
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